いま、ここにあるものを楽しもう
鳥取駅前の百貨店やホテルの近くにあるゲストハウス『Y Pub&Hostel』のミーティングは、とてもにぎやかな輪を作っていた。意見やアイデアが次々に出てきては「いいね、それ」と盛り上がる。「お客さんも、私たちも、ワクワクできる場所でありたい」とオーナーの蛇谷さん。旅行者が羽を休める宿であり、1階はご飯が楽しめるパブであり、また多彩なイベントを行う店としてオープンから7年が経った。今、まちなかでワクワクが集う場になっている。
街の魅力を伝えるゲストハウス
「鳥取のおもしろさを伝えるのは私たちしかいない!と思ったんです。まちなかの営み、人の活動や文化を知っていたから、それと訪れた人とのつながりを作りたかったんですよね」 宿泊するだけの場所ではもったいない。宿を街の人や暮らしの魅力につなげるゲストハウスの文化を鳥取に根づかせたといえる合同会社うかぶLLC。山陰にゲストハウスがまだなかった2012年、湯梨浜町に『たみ』をオープン。2016年には鳥取駅前に『Y Pub&Hostel(以下Y)』をつくった。全国から来た宿泊客は、宿やそこにまつわる人たちに惹かれ、「鳥取に住みたい」と移住を決めた人も多い。
昨年からYのマネージャーを務める谷口さんもその一人。ゲストハウスに興味があり、インターンでたみで働いたことから魅力にどっぷり浸かり、秋田県の美大を卒業後に入社した。
「世界中から来るいろんな人に対して、住みながら情報を集めて魅力を伝えていく。イベントの内容も多種多様で、なんだここは!?と驚きました。ただのゲストハウスではないなって」
自分たちで考えて形にしていく宿は、まるでものづくりや作品表現のような感覚を得られる場所だった。
みんなでつくる価値観
ワクワクが集まる場所も、これまで経てきた年月が生み出した今のYの姿だ。
「今思うと、以前は店を開けることでいっぱいいっぱい。自分たちの体がクタクタでも、安定してお店を開け、同じ料理をちゃんと提供することに集中しすぎていたなぁ」と蛇谷さん。
定休日は週一回、夜も午後11時まで営業が当たり前だと思っていた。もちろんその時々の良さはあったのだが、コロナ禍になって厳しい状況となる中、スタッフで支え合いながら続け、気づいたことがあった。
「量や数ではないもっと小さな満足度もある。それを知っていたのに選択できてなかった。もっと不安定でいいんだって方針として許せるようになったし、人として街に住んでいるお互いが親身になれる関係性ができた。自分たちができることは『無理なくおいしい料理やおもしろいことを健康に提供すること』だと思った」
営業日を思い切って木曜日から日曜日の4日間に減らした。その分、みんなでコミュニケーションが増えたことで「ここの文化ができた」と言う。「課題を解決することをみんなでやろうとなったんですね。Yにとってこれはアリとか、これはナシとかを共有できた」
5年前からYに関わる秋山さんは、「長く働いている人も日が浅い人も、みんなが意見を出し合える居心地の良さがありますね」と話す。
自分を表現する場所
固定概念にとらわれない。そんなYらしさは、イベントや料理のメニューに表れている。「よく名前がないものができる」と蛇谷さんが言えば、料理担当の秋山さんも「そうそう(笑)」とうなづく。
「今、『パイシーオーバーライス』というメニューを出しているんですね。カレーと言ってしまうとちょっと違って、食べてみたらわかるとしか言えないんですけど(笑)」
お客さんからもらう要望や今できていないこと、課題は常に生まれる。どう解決するかという〝問〟に対し、スタッフそれぞれの興味や自分たちにできることをかけ合わせ、Yらしく〝解〟を出す。それは、パイシーオーバーライスのように、他にはなく、今ここにいるメンバーだから出せる表現だ。
「今いるスタッフが、今ある食材でひらめいた料理を食べられるお店。イベントも同じです。そういう場所なんです。今はその時々で変わる料理を楽しんで欲しいと思えるし、一つ一つのメニューにみんながなるべく関わって『これ私が作ったよ』と思えることを大切にしたい」蛇谷さんの表情は晴れやかで、とても嬉しそう。
「大きなことはできなくても小さなことを積み重ねていきたい。それと、ここに来た人たちが自分も何かやってみようかなとか、そういうきっかけになる場所になれたら嬉しい」と谷口さんも続けた。
それぞれが今、ここにあるものを楽しむ。そんなコミュニケーションが広がるゲストハウスが鳥取にある。
Y Pub&Hostel TOTTORI
鳥取市今町2丁目201 トウフビル1F・2F
TEL: 0857-30-7553
写真撮影・文/藤田和俊
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