ゆたかな時間をまちなかで

特集 2022.07.01

趣のある階段を登ってゆくと、その店にたどり着く。国登録有形文化財の五臓圓ビルに、3月にオープンした『五臓円茶房 いとま』。玉露や煎茶、和紅茶を楽しめるカフェで人気を集めている。「このビルのポテンシャルを生かしながら、ゆっくりと自分の時間を過ごせる、心地の良い場所にしていけたら」と話す経営者の中村彩さん。鳥取市街地の歴史を生きてきたビルに、新たに豊かな時間が流れている。

人々が紡いできた場所

1931年に建てられ、鳥取大地震や鳥取大火を乗り越えてきた五臓圓ビル。取り壊しも検討されたが11年前に住民らが声を上げてリニューアルし、街づくり株式会社いちろくが運営してきた。幅広くデザイン事業を手がける株式会社nidoを経営する中村さんは、6年前にご縁ができ、ビル運営に関わり始めたという。

カフェ出店のきっかけは、昨年、ビルのイベントで昔の写真展が開催されたことだった。「この辺りの道に、人も店もびっしり。写真を見てご年配の方が『小さい頃にこのビルに来てクリームソーダを飲んだなぁ』とか話してくださり、場所は誰かの人生に紐づいていると実感した」

五臓円茶房 いとま  /  株式会社nido 代表

中村 彩(なかむら あや)さん

デザイン業を通してものづくりをしてきた中村さん。昨年、「いちろく」の社長を引き継いだこともあり、場づくりをしていきたい思いが募った。

豊かな暇を過ごしてもらいたい

人が集う空間を考えたとき、nidoの社員でいとまの店主も務める大丸真紀さんとともに10年以上習ってきた煎茶道がひらめいた。

 「コロナ禍でいろんな価値観が変わり、不安を感じる人も増えた。お茶は自然の原料を活かし、何千年も変わらず在り続けた文化。お茶を通じて自分の根元や素に帰ることができる場所にしたいと思った」

店名のいとまは、「暇」という文字から。象形文字で崖から両手で宝石をすくいとる形から由来しており、「何もないところから価値あるものを掴む意味。つい効率を考えがちだけど、いい意味で遊びがある暇な状態が人には必要だと思う。リラックスし、静けさの中で感じてもらえるものがあれば」と思いを込めている。

境界線を緩やかに

店のコンセプトは「調和」。田舎と都会、東洋と西洋、自然と人工…。相反するものを分けるのではなく、両者が緩やかに交わることをイメージし、店内のデザインも和だけではなく西洋や中国の雰囲気も混ぜ合わせた。そこには、相反するものの中間点で、調和をとる存在でいたいという願いがある。 「私自身、まちづくりに関わる会社『まるにわ』で活動もしていて、自分ごとと街のことの境界線が緩やかになればいいなと思ってきた。それは自分たちの意識で変えられる。これからもここを人と人をつなげていけるようなお店やビルにしていきたい」

 自分の時間を過ごすのもよし、人のつながりを楽しむのもよし。この場所が一つのきっかけとなって暮らしが少し豊かになる。中村さんはそんな風景を思い描いている。

五臓円茶房 いとま

鳥取市二階町2丁目207 五臓圓ビル2F

TEL: 0857-29-6086

OPEN: 水〜金曜日 11:00〜17:00(L.O. 16:30)

     土曜日 10:00〜18:00(L.O. 17:00)

駐車場: 五臓圓ビル隣に専用駐車場2台

     近隣駐車場の場合チケット掲示で100円引き

Instagram: gozoen_itoma

写真撮影・文/藤田和俊(※写真撮影時のみマスクを外していただき、感染症対策の上取材を行っています。)