新たに積み重ねてゆくもの

鳥取駅前のエリアでこの頃、ジュースを片手に歩く人の姿が増えている。手にはかわいらしい鳥が描かれたカップ。「ジュースを手にして人が歩く、そんな光景をこの駅前につくりたかった」と話すのは、2021年8月にオープンした『ジューススタンドめじろ』の尾坂亮さん。東京からUターンして2拠点生活をしながら、飲食業の経験を生かして実家の文具店内にジューススタンドを併設。今、まちなかに新たな光景をつくっている。
飲食業を始め、人が集う場づくりに興味
祖父が戦後間もない頃に創業した「ヲサカ文具店」に生まれた。「子どもの頃はサンロードにもっと店が多くて、お店をしている大人にかわいがってもらった記憶がある」と、駅前の賑わいとともに育った尾坂さん。横浜市に住んだ大学時代、バーでアルバイトをした経験に大きな影響を受けたという。
「お店があった鶴屋町は、小さなコミュニティーの中でみんながつながっていて、自分のまちという感覚が持てたんです。そこで人が集う飲食業に興味を持ち始めました」
将来の開業を見据えつつ一度就職し、3年後には友人と飲食業を始め、その後も数店舗を立ち上げた。マグロに特化した料理店をはじめ、どんぶりや地方のおつまみを集めた店など、好きなものや興味があるものを提供し、その場から人の輪が広がることが楽しかった。

家業と子育て環境を考え、鳥取にUターン
都会で飲食業を通して〝場づくり〟をしていた尾坂さんが、鳥取に目を向け始めたのは、子どもが生まれて家族の暮らしを考え始めた数年前。その頃、講師として鳥取市のリノベーションスクール(遊休不動産を再生する手法を学び、実践する講座)に参加したのをきっかけに、鳥取での暮らしと事業展開を考えた。
「子育ては自然の多い場所でしたいと妻とも話していましたし、家業のことも頭のどこかにありました。飲食店に全部変えてしまうこともできたかもしれない。でも、文具にも面白さを感じて、うまく生かして何かができないだろうかと考えていました」
明快な答えはまだなかったが、動いてみようと1年前に家族でUターンした。

新しい時代の重ね方。見てみたい景色をここに
ジューススタンドは、ある時に訪れたまちで、人々がまち歩きの合間に店先でジュースを飲む姿を見て着想を得た。「鳥取でもそんな光景が見たいと思いました。それが、文具店のスペースを使うことに結びつき、気軽にいろんな年代の人に立ち寄ってもらえる点でも適していました」と話す。
文具店とジューススタンドという組み合わせも相乗効果を生むという。お客さんはジュースができあがる間に文具や本を手にし、店内で飲むスペースには文具店で扱うノートを置いて自由に書いてもらう。また、尾坂さん自身にも変化があった。「幼い頃から当たり前だった文具ですが、身につけるものとして大切にしたいと考えるようになりました」と、自身が薦めたい文具の取り扱いやオリジナル文具のプロデュースを始めている。

店頭に一緒に立つ妹の妙さんをはじめ、文具店を営む両親ともメニューづくりのアイディアを出し合っている。「実家に関わるのは、家族や文具を含めてということだから結構悩みましたが、今は家族で仕事の話をすることが楽しいですね」と尾坂さん。10種類ほどのオリジナルのフレッシュジュースやスムージーが人気を呼んでいる。寒い時期限定のあたたかいメニューも登場している。
「このまちに、いいなあと思える風景を小さくてもつくりたい。鳥取に帰ってきてみて、その場で流れていた時間などを考えるようになりました。今の時代に沿ったやり方で、いい時間や風景を積み重ねていきたいと思っています」
今後は、さらなる新しい飲食店の出店も計画している尾坂さん。その旺盛な好奇心や行動力が創ろうとしているものはまだまだ多い。

▲合同会社よごと 「ジューススタンドめじろ」 の 尾坂亮さん
ジューススタンドめじろ
TEL:0857-26-2620
営業:月〜金10:00-18:30 土日祝10:00-18:00
定休日:不定休
Instagram:juicestandmejiro
写真撮影・文/藤田和俊(※写真撮影時のみマスクを外していただき、感染症対策の上取材を行っています。)
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