まちなかで生まれる人のつながり
シェアハウスやシェアオフィスなどの複合施設として運営されている鳥取市栄町のマーチングビルに、大学生のネットワークを基盤に農村ボランティアなどを行うNPO法人「学生人材バンク」がこの春に移転しました。「僕たちは人をつなぐことを仕事にしてきたので、まちなかでそれができたらいいなと思っています」と代表の中川玄洋さん。人が行き交う場所に大学生が増え、新たなコミュニティーが生まれていきそうです。
大学生と社会をつなぐ「学生人材バンク」
学生人材バンクができたのは20年前、中川さんが鳥取大学の大学院生だった頃。当時はメーリングリストのコミュニティーが生まれ始めた頃で、地域の人たちが情報交換する場に学生として参加し始めたのがきっかけだったといいます。
「僕自身が社会人の人たちと出会う中で、世の中には面白い人たちがいるなぁと感じたことと、地域や仕事のことも具体的に聞かせてもらうことができました。そこは大学という枠の中だけでは学べないものがあって、学生と社会人がもっとつながったらおもしろいことが起こる気がしたんです」
最初は、地域活動のボランティア参加や人手を欲している情報を集めてマッチングする小さな活動でしたが、2004年に中山間地域の農村ボランティアを県の事業として担うようになると次第に輪が広がりました。2006年には「農村16きっぷ」と名付けたボランティアのプログラムがスタート。高齢化や過疎化でこれまでやってきた行事や農作業ができなくなった集落に学生を派遣し続けています。当初、16だった集落は今や39に増え、参加学生も年間延べ400人にもなっています。
「大学生も田んぼや畑に触れたいというニーズがあるのは知っていて、あとは仕組みをどうするかだと思っていました。現在は、学生が集落の食材を加工・販売する販売班、農村集落の魅力を伝える広報班、集落と学生の交流を深める企画を立てる交流班に分かれ、学生がやりたいことを自主的に形にして動いてくれています」
▲智頭町に集まった学生人材バンクの社員・大学生・OB(2016年12月)
まちなかへの拠点移転
湖山町の鳥取大学の近くにあった事務所を、この春にマーチングビルへ移転。中川さんは、マーチングビルを運営する株式会社まるにわのメンバーでもあり、ビル1階のフリースペースをどう活用するか考えていたといいます。
「新しい暮らしや働き方、人のつながりが生まれたらいいなと思っていたんですが、コロナ禍も重なってそれをどう作ろうか考えていました。新たなコミュニティーをつくっていくお手伝いなら、人材バンクができることがあるんじゃないかと」
この数カ月でも徐々に変化を感じているという中川さん。社会人が仕事で日常的にいる中心市街地はより「出会い」が生まれる可能性が広がる、といいます。
「社会人もまちなかなら仕事のついでに寄りやすいので、ふらっと来てくれる人が増えましたし、学生に人を紹介しやすい環境です。学生にとっても、まちで働く大人と話せる機会が増えることはとても良いことだと思います」
鳥取大学の3つの研究室のコワーキングスペースとしてイベントやゼミでも利用し、月に一度、学生や社会人が交流する「むらまち対話lab」という交流会も始めたそうです。
▲三朝町の田んぼでの活動(2021年5月)
オフライン&オンラインで新たな輪
株式会社まるにわのメンバーとして、まちなかにある課題と可能性を見つめてきた中川さんは「僕ら30〜40代よりももっと若い世代でプレーヤーになっていく人が必要」といい、新しい暮らしと働き方を実現するというマーチングビルのコンセプトを生かした企画もすでに動きを見せています。それが、35歳以下の社会人が学び、新たな活動を始めるきっかけを作るための「オンラインスクール」のプログラムで、学生人材バンクが企画運営を務めます。
「オンラインのつながりは増えていて、そこからオフラインのコミュニティーも生まれやすくなります。まだまだ、可能性はたくさんあります。暮らしや働き方を考えたい人、仕事以外での学びが欲しい人、何かに挑戦したい人…。いかにやりたいと思うことを実現できるまでに持っていけるか、それをサポートしていきたいと思っています。面白い人が増えれば、まち全体が面白くなります」
より気軽に参加できるオンラインでのつながりからさまざまな動きに発展すると期待し、中川さんはより幅広い世代の交流が進む展開を頭に描いています。
▲コーディネーターとして毎週月曜にマーチングビルに常駐
NPO法人学生人材バンク
(※2022年4月より「NPO法人bankup」へ社名変更されました。)
TEL:0857-37-3373
Twitter:@jinzaibank_tim
Facebook:特定非営利活動法人 学生人材バンク
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