特集『自分らしくいられる社会をつむぐ』
人の暮らしも変われば、社会の課題も変わる。まちなかでは今、高齢者の独居が増え、社会的孤立に苛まれる人が増えている。そんな現状を改善しようと、「社会的処方」という取り組みを始めた会社がある。「風邪なら風邪薬を処方されるように、社会的孤立には人や地域とのつながりを処方する。それでみんなが元気に暮らせる社会になったら嬉しい」と株式会社つむぎの原田伸吾代表。昨年から「つむぎマルシェ×地域食堂」を始め、人が生き生きと暮らすための種まきをしている。
人のつながりが減っている






▲株式会社つむぎ 原田 伸吾さん(代表取締役 作業療法士)
「すべての人がやりたいことができる、そんな公正な社会を作るのが僕ら作業療法士の仕事。自分がやりたくても、それができる環境がなければできません。だから、地域づくりも大切なこと。大げさと思われるかもしれませんが、僕の最終的な目標は世界平和なんです」
真っ直ぐな目で語る原田さん。その熱量と行動力が、今、まちなかに風を起こし始めている。経営する株式会社つむぎは、介護と福祉の専門分野の領域を超え、地域づくりにも力を入れている。2012年に創業し、高齢者の通所介護サービスから始め、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、障がいを持った子どものリハビリをする療育事業を主に活動。その中で感じてきたのが地域の変化だった。
「人のつながりが減っていると感じています。高齢者で一人暮らしの方も、だんだんと身体の自由が効かなくなり、生活が成り立たなくなっている。人とのつながりがなくなり、外に出る機会も減り、趣味もやめたという話も聞きます。そういう問題を解決したくても、通常の仕事の中では難しかったんです」
と話すのは、作業療法士として働く下石勝哉さん。解決策として注目したのがイギリスで発祥された「社会的処方」。社会の中につながりを生む仕組みをつくる取り組みだ。

▲『株式会社つむぎ』にて、左から原田 伸吾さん(代表取締役 作業療法士)、下石 勝哉さん(作業療法士 キャリアコンサルタント)
マルシェ×地域食堂
青空が広がった9月末の日曜日。昨年から新設した川端三丁目の事務所敷地で始めた「つむぎマルシェ×地域食堂」に次々と人が集まってきた。2カ月に一度開催。スタッフやその家族、地域の人らが得意なことややりたいことで出店し、飲食ブースや物販が楽しめるイベントになっている。
スタッフの田中圭介さんは、母が製作したクラフトバッグを販売し、「もともと地域に貢献したい気持ちがあったので、マルシェをすると聞いてワクワクしました。少しずつ壁がない社会づくりが進んでいけばいいなと思います」と話した。

日ノ丸温泉は、数回にわたって足湯を提供。鳥取大学生でスタッフの國清晃生さんと谷川智彦さんは手作りジンジャエールを販売。「こういう場があると、大学ではない出会いがあったり、地域のことを知れたりする。どんどん人が増え、にぎやかになってきたと思います」と笑顔を見せた。
つむぎでは、課題を抱える家庭にお弁当を持っていく『アウトリーチ型地域食堂』とよぶ訪問型の伴奏支援を行っている。マルシェでも地域食堂を開くことで「多世代の人たちが、誰でも気軽にきてもらえる場にしようと思っているんです」と原田さんは言う。

人が公正に生きられる社会
「マルシェが目指すのは、人の出番と居場所づくり」。それぞれの“好き”を表現し、挑戦してみたいことをやってみる場にしてもらいたいといい、出店者も随時募集している。
「自分らしくいられるって何だろうと考えたら、自分が大事にしていることができることだと思ったんです。そのためには、それを応援する社会が必要だと考え、まちづくりに取り組み始めました。介護や福祉といった私たちの専門領域だけでなく、異業種の人たち、地域のさまざまな人たちとつながってやっていかないといけません」
すべての人がやりたいことができる社会を作る。その理念がつむぎを突き動かしている。「社会的孤立だけでなく、子どもたちの体験格差もなくしたい」と原田さん。社会の大人を招いて子どもたちが話を聞けるリビングライブラリーもを実施している。
『つむぎ』という社名は、人と人、地域のつながりを繋ぎ直していき、みんなが自分らしい人生を送ることができるように、想いを込めた。これからもそんな豊かな生き方を紡いでゆく。

誰でも参加OK!参加無料
つむぎマルシェ×地域食堂
次回開催:2025年11月30日(日) 11:00~14:00
場所:つむぎ川端事務所
(鳥取市川端3丁目117)
駐車場:むつみ保育園、あすなろ駐車場
お問い合わせ:株式会社つむぎ
TEL:0857-30-6981
つむぎマルシェの情報はこちらから↓
写真撮影・文/藤田和俊
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