特集『人が集えば、何かが生まれる』

特集 2025.06.25

 「いろんな人たちが行き交うこの場所で、人が集まるコーヒー屋を作りたかった」。袋川にかかる花見橋を久松山方面へと渡った角地に、今年3月にオープンした「KROW TO COFFEE」。店主の小坂諒平さんは4年前にUターン。好きなコーヒーを仕事にしようと開業した。高校生から地域のシニア世代まで老若男女のお客さんが訪れ、一杯のコーヒーを味わいながら、そこで生まれる交流も楽しんでいる。

コーヒーとの出会い

 「出会い」は人生を変えることがある。小坂さんにとってのそれは大学時代に飲み始めたコーヒーだった。「それまではカフェオレとかしか飲んだことなかったんですが、飲んだら『あ、おいしいかも』って思いました」。最初はコーヒーの味が好きになり、そのうちに大学があった埼玉県から都内のカフェ巡りをするのが趣味になった。

 「最初は味比べをしていたのですが、だんだんコーヒーを楽しむというよりもそのお店の持つ雰囲気や、そこの店主やお客さんとの会話が楽しくなりました」

 もともと人と話すのが好きだという小坂さん。コーヒーを通じて改めて人と話す楽しさを感じ、就職では営業職に就いた。岡山市で働いたがコロナ禍で直接人と触れ合う機会が減り、閉塞感の中で仕事にも馴染めなかったと振り返る。

 「未来が見えなくなって、何かを変えるなら早い方がいいと思いました」
自分の人生をもう一度考え直そうと、鳥取に帰ることにした。

▲KROW TO COFFEE 小坂諒平さん

コツコツと積み上げ、開業へ

 「中学から大学まで陸上の長距離種目をやっていて、そこでも決められた練習をやらなければいけなかったり、コロナ禍でもいろんなことが制限されたり。そういう縛りがあったから、何か自分でやってみたいと思いました」

 選んだのがコーヒーだった。職業にするまでやるべきことはたくさんあったが、自ら立てた3カ年計画をコツコツとクリアしていくことに集中した。コーヒーの勉強をして協会資格を取得。イベントに出店して値付けや接客、お客さんの反応を見ながら経験を積んだ。それでも3年という月日は決して短いものではないが、小坂さんはひょうひょうと答える。

 「人にとっては長いかもしれませんが、僕には陸上で磨いた忍耐力があります。目標達成に向けたプロセスは陸上と似ていて、結果が出るまでの9割は地道にやることをやる。小さな目標を一つずつクリアしてきたので、不安はなかったですね」

 それに加えて、大きかったのが地元の人たちの温かさだった。いろんな人たちが応援してくれ、同業者もアドバイスをくれたという。最初は全然帰るつもりはなかったが、いつしか鳥取で挑戦できることに喜びを感じていた。

人とのつながりが醍醐味

 オープンして3カ月。生豆の選定からドリップまで一貫し、全体収穫量の数%しかないスペシャルティコーヒーにこだわった店には、学校帰りの高校生から近くに住むシニア世代まで幅広いお客さんが訪れる。

 「もともと目指すお店のスタイルがあって、それはヨーロッパで17世紀に流行ったコーヒーハウスです。当時の人たちにとって一つの社交場であり、コーヒーを通してそういう空間が作りたいとずっと思ってきました。最終的には『あ、あの人が来ているかもしれない』と会いに来る人がいる、そういう店になれたら嬉しいですね」

 カウンター席のみにしたのも、お客さんとのコミュニケーションを大事にしたいという思いから。注文時にはその日の体調や気分など、会話で得たものを基にコーヒーの淹れ方も微妙に変える。人とのつながりの中で淹れる一杯、会話や出会いが何よりも楽しさややりがいにつながっている。

 「人が集うことで生まれるものがあると思っています。そういう中から自分がそうしてもらったように、誰かの挑戦を応援できるようになれたら。今はまだまだなので、もっと頑張りたいですね」
まだ先にあるゴールを見据え、着実に歩を進めている。


KROW TO COFFEE

住所:鳥取市元町221
駐車場:店舗横ガレージ2台
OPEN:10:00~18:00 LO.17:45
夜コーヒー:金土(19:00~24:00 LO.23:45)
CLOSE:水 
Instagram:@krowtocoffee


写真撮影・文/藤田和俊