特集『人のつながり、気持ちの循環』

特集 2025.03.25

 かつて飲食店街だった袋川近くの初音通り。今は住宅が並ぶ通りになったが、そこに空き家をリノベーションした一軒のお店がある。その名も「不真面目商店」。なんともユニークな名前だが、大学生が店長となって真面目に営業中。「みんながやりたいことを持ち寄ろう」と地域の人たちが出店する棚が並び、週2回の朝コーヒーの時間には子供からお年寄りまで幅広い人たちが集まる。オープンしてもうすぐ3年を迎える今、新たなコミュニティースペースとして成長しているようだ。

大学生たちが運営する商店

 「おはようございます。よかったらコーヒー淹れますので、奥に上がってください」


 出迎えてくれたのは、店長の小谷峻一さん=鳥取大学地域学部1年=。火・金曜日の朝コーヒーはいつもにぎわっていて、この日は雪が降っていたにも関わらず、十人ほどが朝ごはんを食べながら談笑していた。


 もともと鳥取市中心市街地の遊休不動産活用を考える「まちづくりワーケーションプログラム」(まちワケ)の対象物件で、元果物屋さんだった空き家を改装。参加者の一人の東京の大学生が店長に名乗りをあげて、インターンとして鳥取にやってきて2022年8月に開店。現在は小谷さんと永石晄也さん=鳥取環境大学経営学部1年=が5代目の店長を務めている。


 「住宅街では真面目な商売は難しいのではと助言を受け、逆転で『不真面目商店』という名前をつけた。ふざけるとか適当という意味ではなく、商売よりもまずまちの人たちがどう使いたいかを考え、そこに振り切ってやってきました」と、まちワケの主催者である株式会社まるにわの中川玄洋さん。


 プログラムの中で、地域の人たちのやりたいことが集結する場所にしようと貸し棚が考案された。ハンドメイド作品、漫画や本などがずらりと棚に並び、趣味や特技を披露し、販売するきっかけになっている。

▲『不真面目商店』にて、左から永石晄也さん(鳥取環境大学経営学部1年)、小谷峻一さん(鳥取大学地域学部1年)

「やってみたい」ができる場所

 「こういう場所が必要なんです」と話すのは、棚オーナーで、27年間「こひつじ文庫」という活動をしている山内英子さん。いつの時代も変わらず愛される絵本を棚に並べ、定期的に紙芝居も行なっている。


 「いつまでも残る『いい絵本』を手に取って読んで欲しいと棚に置かせてもらっています。ここにはものづくりをしてささやかに売ってみたいという思いを持った人、技のある人が集まっています。お互いの情報交換もでき、小さな経済の渦巻きを作っていると思います。『大人のたまり場』にもなってますよ」

 「棚は自分の好きや趣味を表現でき、それを共有してつながれる場所」と小谷さん。棚オーナー同士が、不真面目商店でハンドメイド作品などの販売をしたり、一緒に市内のイベントに飛び出したりと交流が生まれている。棚を通じた刺激や学びを与え合う関係性も魅力のようだ。

 誰かの挑戦や人と関わりたいという気持ちが交差し、人のつながりが生まれるコミュニティースペースは、若者にとっても貴重な場所だ。小谷さんは鳥取市出身。高校2年生の頃から不真面目商店に通い始めた。

 「友達から聞いて来ていい場所だなと思って。高校生が実家で作っている野菜を売ってたら面白いよねと初代店長と盛り上がって、やり始めました。まちづくりに興味はあったけど、実際に地域に関わるのは初めてで、ここは活動の原点です。自分が主体的に動いてみて、人のあったかさだとか数字で測れない鳥取の良さに気付けたなあと思っています」

 福岡県出身の永石さんも、引き寄せられるように不真面目商店に来た。


 「大学で鳥取に来て空き家を使って自分で何かできたら面白いなと興味が湧いたのがきっかけです。ここがあるからまちなかに来るようになりました。散策してみると、まちに出てみないと分からないことがたくさん得られます」


 その輪が広がり、大学生ら10人ほどが交代で店番をして運営している。

人が寄り合う場

 最近の朝コーヒーには、豪華な朝ごはんが並ぶ。聞けば近所に住むシニア世代の女性らが手作りし、持参してきてくれるのだとか。

 「最初はコーヒーだけじゃお腹が減るだろうっておばあちゃんたちがパンを持ってきてくれて、その次にはサラダが加わり、おかずが増えていったんです。朝ごはんと呼ぶには豪華すぎるごちそうになっています」と、小谷さん。大学生たちは実家や旅のお土産を持ってきたり、参加者の持ち寄りがあったりと、心がつながる場となっているようだ。


 その中で、半年ほど前から来ているという80代の女性は、孫を可愛がるような目で、嬉しそうに笑っていた。


 「こうしてみんなが美味しいって言ってくれるでしょう。そうしたらまた作りたくなるし、自分が楽しんでいるだけ。今だんだん空き家も増えて老人ばっかりになっているから、若い人たちと話したり笑い合えるこんな場があると嬉しいですよ」


 週末は、子供たちがやってきては一緒に遊び、宿題を教えることもある。「これからは中高生が空いた時間に勉強できる場所も作ってみたい」と永石さん。つながりが薄くなりつつある時代に、家でも学校でもなく、地域の中で多様な人と関わる機会があることは、若者世代にも地元の良さを知ってもらうことにつながるだろう。


 「ここに来れば誰かいて、安心する。鳥取での実家みたいです」と永石さんが言えば、「せまくて深いコミュニティが特徴。みんなで“不真面目家族”という感じ」と小谷さん。「世代を超えて、人の気持ちが循環する場所」と山内さんも言う。


 今日も不真面目商店からは、いろんな笑い声が聞こえてくる。


不真面目商店

住所:鳥取市元町205

オープン情報はInstagramで更新しています!
Instagram:@humajime205


写真撮影・文/藤田和俊

写真提供/不真面目商店