美しいものは、日常の中にある
本当に美しいものは、日常で使うものにある。柳宗悦がうたった『用と美』を根付かせようと、鳥取民藝運動を先導した吉田璋也が民藝専門店であるたくみ工芸店を立ち上げたのが今から92年前。その〝民藝館通り〟に今年、新たに『たくみ珈琲店』が誕生した。地元の作を中心に民藝の器を使い、こだわりのコーヒーや食事を楽しめる。鳥取の民藝を身近に感じられると、人気を集めている。今号では『民藝』をキーワードにつながる3人にお話を伺った。
まちなかで新しい挑戦
「正直、ビジネスとしては難しいと思いましたが、自分が貢献できることがあるならやりたいと思ったのと、僕も民藝が好きなんですよね」
そう話すのは、たくみ珈琲店を経営する合同会社クラストの山根大樹さん。2002年に本通りにカフェを開き、その後もまちなかに多数飲食店を作ってきた。そのノウハウを活かし、鳥取の文化に貢献したいと出店を決めた。
▲『たくみ珈琲店』にて、左から川﨑富美さん(プロダクトデザイナー)、本間公さん(工作社)、山根大樹さん(株式会社クラスト)
「カフェをやりたいと考え始めた20代の頃、民藝が再注目されカッコいいと思った。その中心地の一つが鳥取と知り、振り返ってみたら実は当たり前に家にもあった。そういう文化っていいなと思いました」
会社を共同経営する心強いパートナーもでき、想いを形にすることを決意。民藝館通りの活性化事業を進めていた新鳥取駅前地区商店街振興組合から運営を受託する形で、鳥取民藝美術館の監修と協力を得て、スタートした。
まちなかで店舗デザインを手がけてきた友人でもある木工職人の本間公さんに依頼。働き手も含めて民藝に触れてもらえる店ができたと自負する。
改めて感じる民藝の魅力
電球色の暖かな灯りの店内には、落ち着いた時間が流れている。椅子は、鳥取民藝家具オリジナルやヨーロッパのアンティーク、地域の方に寄付してもらったもの。テーブルは工作社で製作した。
「両親とも民藝が大好きで、子どもの頃から窯元に連れられて行ったりと身近ではあったけど、今回家具を製作してみて、民藝は形や様式じゃなく考え方とか思想を大切にしているのがわかった」
職人が毎日丁寧に続ける民藝のものづくりについて考える機会にもなった、と本間さん。民藝は、このまちで人の暮らしや営みの中に連綿と受け継がれているものなのだろう。
川﨑富美さんは、たくみ珈琲店の物販コーナーのスタイリングや広報をサポートしている。プロダクトデザイナーを目指したのは、柳宗理がきっかけだった。2017年に独立して東京からUターン。以前、無印良品のデザイナーとして働いていた時に鳥取民藝に出会い、惹かれていった。
「もともと地域で作られていた良いものを探し歩いて紹介する企画で、鳥取の窯を巡り延興寺窯を取材したのが最初で、そのうち鳥取民藝美術館の展示替えを手伝わせてもらうようになって。今は『YANAGIYA REPRODUCT』に参加し、郷土玩具の張り子面の作り手としての活動も始めました」
暮らしに民藝を
「民藝の器は食べ物にすごく合うなって。同じように人の手で作られた料理を盛り付けるものとして素直だなあと思う。自分が子どもの頃に使っていたものを、今母親から譲り受けていて、そこには昔の風景も記憶に刻まれている。そういうのもいい」
本間さんがそう言えば、川﨑さんも続ける。
「自然素材に近い民藝のものを使うことは、すごく心の癒しになると感じます。私は作り手でもありますが、自分が使っている情景が目に浮かぶものをお買い物して使って、たまに友人を食事に招いて好きなものたちをお披露目してという形で、作家さんを応援したいなあと思っています。皆さんにも楽しんでもらえたら」
民藝は古き良きものではなく、今なお県内でもたくさんの作家たちが新しい作品を世に出し、その文化を受け継いでいる。日々の暮らしの近くにあるものだ。たくみ珈琲店は、作家たちが活躍できる舞台でもあり、その価値をたくさんの人に届ける場所になっていくに違いない。
「民藝は鳥取を誇れるものの一つだと思っています。まずは鳥取の人に知って欲しい。知ることや使うことで、伝統や文化を深掘りしてもらうきっかけになれば」と山根さん。
民藝に触れられる店で、日常の景色が少し変わるかもしれない。
\鳥取まちなか民藝スポット/
■鳥取民藝美術館・鳥取たくみ工芸店
住所:鳥取市栄町651
TEL:0857-26-2367
WEB:https://www.tottori-mingei.jp/
Instagram:@tottori_takumi
■たくみ割烹店
住所:鳥取市栄町653
TEL:0857-26-6355
■たくみ珈琲店
TEL:0857-51-1178
WEB:https://www.takumi-coffee-shop.com/
Instagram:@takumi.coffee.shop
写真撮影・文/藤田和俊
料理写真提供/たくみ珈琲店
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