楽しい場所に、人は集まる

久松山が正面に見えるのが印象的な花見橋に続く通りに、一軒の灯りがついた。29歳の米山颯さんが腕を振るう飲食店『Monte』。「とにかくお客さんに楽しんでもらいたい。うちの店に来たら元気が出たよと言われるお店でありたいですね」。興味の赴くままに進んだ料理の世界で感じたのは、人に喜んでもらう楽しさだった。飲食店だけでなく、ビルの上の階は居住スペースとして貸し出すと言い、通りに新たな賑わいが生まれそうだ。

サービスは人を笑顔にする

 「最初から確固たる思いがあったわけではないんです」

 将来やりたいことを考えたときに浮かんだのが好きだった食べること。岡山県の調理師学校に進んだ。「今でも一番尊敬しているシェフのお店では、お客さんのためにという気持ちが強く、レベルの高いサービスが徹底されていました」と、学生時代のバイト先で、後に修行を積むことになるイタリアンレストランでの体験が転機となった。プロのサービス精神や技術が、昔から人に喜んでもらうことが好きだった米山さんを刺激した。

 「本当は内気で、妻にも普段と営業している時のギャップがあると言われます(笑)。岡山で教わったのが『サービスマンはピエロであれ』という言葉。マイナスの意味ではなく、お客さんに楽しんでいただくための役割に徹するということ。無理してるのではなくて、自分も楽しくて勝手にアドレナリンが出てスイッチが切り替わる感じです」

 岡山から鳥取に帰ったのが5年前。家業である金属加工を行う米山製作所を継いで欲しいという父の声に応えた。日中は製作所で、夜はまちなかの飲食店で働く生活。「やっぱり飲食の楽しさを忘れられなかったですね」。自分の店を持ちたいという思いは日に日に膨らんだ。

人が集まり、楽しいと思える場に

 「料理は得意ではなかった」と苦笑いする米山さん。意外な言葉に驚いていると、「僕は料理人というよりサービスマン。喜んでもらうことがしたいだけ」。正直な告白がまたこの人らしいところで、料理の腕前もそのサービス精神で磨いた。

 「2年前から週末の間借り営業で料理を出し始めたのですが、そこで常連になって下さった方がいて、その人たちに喜んでもらえるように、1年間毎週2品新しいメニューを考えると決めて、やり切りました。それが今につながっています」

 父とも相談し、家業の一事業として飲食店を開くことに。遊休不動産活用に取り組む株式会社まるにわから紹介された物件は、1階が元スナックで、2~3階が住居だったビル。米山さんの好奇心をくすぐった。

 「1階はイタリア料理中心としたレストラン。2~3階はソーシャルアパートメントという形にしました。住人は、自分だけの空間はありながら、共有スペースとして1階のVIPルームを、夜の営業時間以外はプライベートバーみたいに自由に使えて、住人同士や僕らと交流できるほか、お店の料理も割引で食べられます」

花見橋通りを盛り上げたい

 店名の『Monte』は、イタリア語で「山」。米山の苗字から名をつけ、イタリアンといったあえて特定の料理店名はつけなかった。

 「僕やスタッフが自由に料理を作りたいということもあるんですが、家族連れやいろんな人に気取らずに来てもらいたくて。僕自身、小さな子供がいるので行きやすい店でありたいんです。そのために椅子も片側はベンチシートにしました」

 どこまでも人のことを考えるのが米山さんのサービス。お子さんにもテーブルが安全であるように、ひっくり返らない重さにした。もちろん米山製作所に発注したオリジナル製品だ。家業を生かし、真鍮のカトラリーレストやカードスタンドも自社で製作した。「まだまだこれからやりたいことはたくさんあります」と目を輝かせる。

 「ここ花見橋通りは以前、まるで原宿のように歩けば肩が当たるほどの賑わいだったと聞いています。今も信号がない一直線の通りで、景色も良くて歩く方も多いですよ。近くに少しずつお店が増え、たくさんの人が夕方から飲んだり食べたりする光景を夢見ているんです」

 プレオープンの日も、通りがかりに新しい店を気にする人の姿が。人がまた人を呼ぶ。「楽しい」が生まれるMonteに、今日も灯りが燈る。

Monte

鳥取市栄町225

TEL:080-6980-3063

OPEN: 

ランチ 金・土・日 11:45〜14:00(L.O. 13:30)

ディナー 火〜土 18:00〜24:30(L.O. 24:00)

定休日: 月曜、日曜ディナー

Instagram: monte2023510


※営業時間が紙面掲載情報から変更になりました。


写真撮影・文/藤田和俊