暮らしも仕事も、つながるまちなか

あなたにとってまちなかはどういう場所ですか?暮らす場所?それとも働く場所?今回の特集で取材したのは、中心市街地に暮らしながらさまざまなプロジェクトのマネジメントを仕事にされている野口明生さん。自然体な雰囲気が印象的な人で、楽しげなコトが起きている場所にはいつもその姿を見る気がする。そこにまちなかの魅力が見えてくるのではとお話を伺った。

岡山県でゲストハウスを立ち上げた経験


 「いつも何をやっている人かわからないと言われるんです」。肩書きは、フリーランスのプロジェクトマネージャー。地域、大学、団体などの事業やイベントに関わり、企画を考えたり、進行をサポートしたりするのが仕事だ。そもそも今の仕事につながるきっかけは、岡山市でのゲストハウス運営だという。

 「もともと三朝町出身で、湯梨浜町に『たみ』というゲストハウスができる時に手伝いをしていて、そこで知り合った設計士さんから岡山市の空き家で何かやってみないかと誘われたんです。たみを見ていて、人が交流してそこで何かが起こる現象が面白いと思って始めました」

 岡山駅西側の古い建物の並ぶ商店街の端で、空き家をリノベーションしてゲストハウスを作った。「なんでこんな場所に?」と言われながら、若者や外国人旅行客などが集い、次第にその街の景色が変わっていった経験は野口さんにとって大きかった。

 「0から1を作っていく面白さがありましたし、その経験があるから、今も何かプロジェクトをやりたい時に進行を組み立てる仕事で声をかけてもらえるのかもしれません」

 街で人が交わることを生み出すこと。それ自体の面白さが、今の活動の原点でもある。

野口明生(のぐち あきお)さん

▲鳥取銀河鉄道祭『ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」』(2019)



鳥取市に移住し、まちなかが生活拠点に


 岡山でゲストハウスの立ち上げと運営を5年経験したのち、2017年に結婚を機に地元鳥取県にUターン。鳥取市の中心市街地で雑貨屋を営んでいた妻とともに、市内に暮らし始めた。

 「まちなかは便利だなといつも思っているんです。当時妻の店に通えるのがきっかけだったけど、今もまちなかに居る。いろいろな活動をしている友人もすぐそばにいて、子供も近くの学校に歩いて通える。自分の生活全部がそこにまとまっているのがいいなと感じています」

 2018年には、市民参加型の舞台公演「鳥取銀河鉄道祭」の事務局を務めることに。そして、リノベーションスクールの講師、全日空が実施したアーティストインレジデンス実証実験「ANA meets ART “COM”」の現地コーディネーター、福祉とアートを掛け合わせた企画展「フクシ×アートWEEKs」など、まちなかを舞台にしたプロジェクトに声がかかった。

▲(上)リノベーションまちづくりのイベント『空き家会議vol.3「遊」』(2018)


 ゲストハウスの運営マネジメントや、出身の県中部では、人の記憶を記録する映像制作やショッピングセンターを盛り上げるプロジェクトにも携わり、その活動は広がっている。

 仕事の内容は、スケジュール管理や企画書作りと諸々の事務仕事も多く、「足りない所を埋める『都合のいい人間』なんです」と笑う。だが、この人にマネジメントをお願いしたくなるのにはきっと理由がある。

 「僕はそれぞれのジャンルの専門ではないけど、どんな企画でも共通するのがマネジメントの部分で、とても大切だと感じています。そのプロジェクトが行われることでちょっと日常が面白くなるんじゃないか、違う見え方がするんじゃないかと思うとワクワクして、自分なら何ができるかを考え始めるんです。基本は何か変なこと、新しいことをしたいというのがあるんですよね」

 街に生き、街を知り、街をちょっと楽しくするには何ができるか考える。それを楽しみながら、人や街やアイデアをやわらかにつなげている。

▲(下)鳥取大学地域学部とフクシ×アートWEEKsの連携企画『ものがたる作品展』(2022)

暮らしと仕事がつながる場所


 知り合いや出会いの中から声をかけてもらうことで仕事が生まれているという野口さん。

 「まちなかに住んでいるからまちなかの人に出会って、ありがたいことにお仕事をいただいている。お互いの顔が見え、すぐにつながることができています」

 それぞれの役割がある中で、野口さんはその企画力や運営管理能力で、人を惹きつけるプロジェクトを動かしている。暮らしながら、ばったり人に出会うように、仕事に巡り会うのもまちなかの面白さであり、それには鳥取市の規模もちょうど良いと感じている。

 「今みたいなバランスが絶妙な気がします。同世代だけじゃなくて高齢の方がされているすごく貴重だと思う店もあるし、一人一人が重要なポジションを担っている。ここではそれが感じられます。過剰じゃないのが逆に便利というか、心地よいんです」

 取材の最後は、よく顔を出すという新町の上田ビルへ。雑貨を扱う「santana cotoya」で談笑しながら、ふと見つけた小さな折り畳みテーブルを購入する野口さん。「春のピクニックに良さそう」。街を楽しむ人は、嬉しそうに笑った。

▲野口さんの活動はこちらから


写真撮影・文/藤田和俊(※写真撮影時のみマスクを外していただき、感染症対策の上取材を行っています。) 活動写真提供/野口明生さん